今回は2024年4月発売のDigitakt MKIIを紹介します。 初代DigitaktはElektronの中で最も人気と言っても過言ではなく、使いやすさと機能性を両立させた素晴らしい機種でした。
その後継機であるDigitakt MKIIは、基本コンセプトはそのままにステレオサンプル対応や128ステップシーケンサーなど、多くの機能が強化されています。
本記事ではDigitakt MKIIの機能や初代モデル(MKⅠ)との違いなどを解説します。
目次
Digitakt MKII – 概要と特徴
Digitakt MKIIは、スウェーデンのシンセメーカーのElektron社が開発したサンプラー/グルーブボックスです。
MIDIもしくはオーディオ(モノラル/ステレオ)に対応した16トラックに加え、ディレイ/リバーブ/ビットクラッシャーなど複数のエフェクトを搭載しています。
初代Digitaktと同様、これ一台あればドラム・ベース・パッド・リード・ボイスサンプル全てを使い楽曲制作/ライブパフォーマンスができます。
また、後述するElektron社のマシン特有の強力なシーケンサーも魅力の一つです。
音質について
全てサンプリングベースで音を鳴らすので、アナログシンセ・ドラムマシンとは発音方式が異なりますが、初代Digitaktの時から市場のサンプラーの中では音質は良い方だと思います。
ちなみに初代→MKⅡでデジタルアナログコンバーター(DAC)が変わったとの情報は見つけられなかったため、搭載部品による音質の変化はほとんど無いはずです。
また外部から取り込んだオーディオサンプルも扱えるので音作りの幅が広いです。(iPhoneで再生したYouTubeの音をDigitaktでサンプリングしている人をInstagramで見ましたが面白いですね)
太いサウンドを鳴らしたければ、最初から太いサウンドのサンプルを使えばよいので、デジタルサンプリングであることが足を引っ張ることはないでしょう。
MKⅡから搭載された新しいアルゴリズム”Stretch”によって音質劣化を抑えて再生オーディオサンプルの再生速度を変えることができるのには驚きました。
(~08:25から従来のアルゴリズム”WERP”と新しい”STRECH”を比較しています。2番目に再生する方がSTRECHですが、音質の劣化が少ないのがわかります。)
16トラックのオーディオトラック
初代ではオーディオを扱えるのは8トラック(モノラルのみ)でしたが、MKⅡでは16トラック(モノラル位/ステレオ)に増えました。
これはかなり嬉しいアップデートですね。
初代では広がりのあるシンセパッドの音を作るためにディレイ・リバーブ使ったり、PanをLFOで揺らしたりしていたのですが、MK2では最初からステレオ素材として扱えるので音作りが楽になりました。
トラック数が増えて、ステレオサンプルが扱えるようになったので、本体のストレージ・メモリ容量が気になるかもしれませんが、400MBのサンプルメモリと20GB本体ストレージあるので心配はいらないと思います。(初代と比較してサンプルメモリは5倍以上、本体ストレージは20倍です。)
また各オーディオトラックにはLFOが3機搭載されているのも素晴らしいですね。
MIDIトラックも初代の8トラックから拡張され16トラック(同時発音数4・各トラックにLFO2機搭載)になりました。
強化されたフィルターラインナップ
個人的にMKⅡでの1番の嬉しいアップデートはコムフィルター(髪をとかすクシのように複数の山と谷があるフィルター)ですかね。
音を聴いてもらえば一発でわかりますが、金属的で攻撃的な音が作れるので、グリッチ系の音を作るときに重宝します。
また初代ではフィルターの一つの機能としてか使えなかったシングルバンドのEQですが、MKⅡから独立したページで編集できるようになりました。
シーケンサー機能
Digitakt MKIIのシーケンサーも非常に強力で、初代の64ステップの倍の最大128ステップのパターンを作成できます。
わざわざ書く必要もないかもですが、Elektronのお家芸「パラメータロック」機能も健在です。
「パラメーターロック(Parameter Lock)」とは、シーケンスの各ステップに、特定のサウンド、エフェクト、あるいはパラメータ設定などを個別に割り当てることができます。
例えば、パラメーターロックを使って、特定のステップにフィルターカットオフやエフェクトのセンド量などのパラメータ設定を変更することができ、独自でダイナミックなサウンドを作り出すことができます。
※百聞は一見にしかず 参考動画はこちら(Analog RYTMを使っていますが、Digitaktも同じことができます)
ベースの音程やローパスフィルターをステップごとに変化させています。全てのトラックの全ての値を、ステップ毎に変えられるので、リズムパターンの展開に困ることは無いですね。
パラメータロック以外にも、三連符、マイクロタイミング、スウィング、リトリガー(1ステップで32や64回音をトリガーできる連打機能)など、高性能なシーケンサーにあるものは全て揃っています。
DigitaktにはAnalog RYTM MKⅡで搭載されたユークリッドシーケンサーも搭載されていますが、筆者はあまり使わないので、たまに気分転換になるかなーぐらいの感想です。
※ユークリッドシーケンスとは特定の数学的規則に基づいてリズムパターンを生成すること(ちゃんと解説しようとすると長くなりそうなので割愛 外部サイトですが参考ページ載せておきます。)
エフェクト
Digitaktはエフェクトも充実しており、MKⅡでは新しくコーラスが追加されました。
初代から搭載されれているものも含めて、ビットクラッシャー/オーバードライブ/サンプルレートリダクション/ディレイ/リバーブ/コンプレッサーなどがあります。
またMKⅡではマスタートラックにエフェクトもかけられるので、ライブパフォーマンスで便利ですね。
接続端子・拡張性
Digitakt MKⅡは他の多くのElektronマシンと同様に、Overbridgeという専用のソフトウェアを使ってUSB接続によるオーディオパラアウトが可能です。
このOverbridgeが非常に優秀で、サンプルやプリセット管理や大きなメニューでパラメーターの編集ができ、プラグイン感覚でDigitaktが操作できるんですよね。
Digitaktはマスターアウト(L/R)しか搭載していないため各トラックのアナログパラアウトができないですが、Overbridgeを使えばUSBケーブル一本でDAWにパラアウトで出力できます。
また外部のモジュラーシンセやハードシンセ、ドラムマシンをコントロール可能なMIDI端子も付いています。
他のElektron製品との違い・比較
Elektronの同価格帯の製品としてSyntaktがありますが、簡潔にまとめると以下の違いがあります。
Syntakt:シンセエンジンが充実、サンプリングなし
Digitakt:サンプリング特化マシン、アナログシンセなし
【Syntakt】
SyntaktはElektronのハイエンドモデルであるAnalog RytmやAnalog Fourと同じアナログシンセエンジンをいくつか搭載しており、ドラムやコード、リードシンセ用のサウンドエンジンも持っています。
アナログだけでなく個性的なデジタルシンセエンジンを使えるので、これ一台で幅広い曲が作れます。
やはりはアナログ/デジタルのシンセエンジンがあることで、ゼロイチで音作りをしたい場合はSyntaktがおすすめめですね。
【Elektron/Digitakt】
一方Digitaktはサンプラーなので、既に存在するオーディオサンプルを加工するのがメインです。
Digitaktにはスライサーやリピッチが付いているので、ヒップホップ的な使い方やブレイクビーツの制作をやる方は絶対Digitaktがおすすめです。
また曲の中にボイスサンプルやフィールドレコーディングのオーディオ入れたい場合もサンプラーであるDigitaktに軍配が上がりますね。
Digitakt MKIIとMKIの違い
ここまでで何度か触れましたが、初代モデルとの主要な違いを以下比較表でまとめています。
※これ以外にもたくさんのアップデートがあるのですが、多くの人にとって気になるであるポイントに絞りました。
初代(MKI) | 現行(MKⅡ) | |
---|---|---|
オーディオトラック数 | 8(モノラル) | 16(モノラル/ステレオ) |
MIDIトラック数 | 8 | 16 |
エフェクト | ビットクラッシャー/オーバードライブ/サンプルレートリダクション/ディレイ/リバーブ/コンプレッサー | ビットクラッシャー/オーバードライブ/サンプルレートリダクション/ディレイ/リバーブ/コーラス/コンプレッサー ※マスターエフェクトあり |
フィルター/EQ | ハイパスフィルター/ローパスフィルター/EQモード | マルチモード/コムフィルター/4ポールローパスフィルター/ハイパスフィルター/ローパスフィルター ※独立したEQモードあり |
サンプルメモリ | 64MB | 400MB |
本体ストレージ | 1GB | 20GB |
発売 | 2017年5月 | 2024年4月 |
Digitakt MKIIの購入前に知っておきたいポイント
注意点というほどではありませんが、購入前に以下のポイントを把握しておきましょう。
価格
Digitaktの値段ですが、昨今の世界情勢や円安の影響もあり、値段がどんどん高騰しています。 ついこの間まで初代モデルが8万円で購入できたのですが、Elektronが複数回値上げしたこともありMKⅡ発売時には17万円台になってしまいました。
ただし上記の事情は他のメーカーも同じなので、特別Elektronがぼったくり価格で販売しているわけではありません。
私の知る限りElektronはYamahaやKorg、Roland、その他の海外メーカーよりも製品サイクルが長い上に、10年以上ファームウェアアップデートを配信しています。
価格は高いですが、長く使えますし、好みじゃない場合はリセールバリューも優れています。
使い方や操作方法
Elektronのマシン全体に言えることですが、機能が豊富なので操作方法について覚えることが少しばかり多いです。
ただ、直感的かつ合理的なユーザーインターフェースということもあり、慣れたらこれ以外のシーケンサーを使えなくなるほどです。
そしてDigitaktはElektronのマシンの中でも簡単な部類なので、入門としては最適です。
本体付属の説明書で覚えても良いのですが、以下のソースを活用するとより効果的ですね。
・ユーザーコミュニティ(英語)https://www.elektronauts.com/news
・2ch Elektron 総合スレ(日本語)
・Youtube※以下は英語のチャンネルですが、日本語字幕が付けられます
Digitakt MKIIの長所と短所・どんな人におすすめ?
Digitakt MKIIの長所と短所をまとめると以下のような感じです。
長所:16トラックのステレオサンプル、8トラックMIDIチャンネルと市場のサンプラー・グルーブボックスの中では最高峰のスペック、 豊富なシーケンサー機能
短所:機能が多い分操作が少し複雑、価格が高い
個人的にはライブパフォーマンスやる人におすすめですが、制作にも問題なく使用可能なので長く使えるサンプラー・グルーブボックスを探している人は是非検討してみましょう。
総合評価
Digitakt MKIIはまさに最強のサンプラーです。
Digitaktは人によって十人十色の使い方があるので、筆者はよくYouTubeやInstagram、X(旧Twitter)に投稿されているパフォーマンス動画を見ながら使い方のヒントを貰っています。
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