Elektron/Syntakt レビュー これ一台で完結するシンセ&ドラムマシン

今回はElektron/Syntaktを紹介します。デジタルとアナログの両方のサウンドエンジンを持ち、Elektron製品に限らず他のシーケンサー付きシンセと比較しても、段違いで音作りの幅が広いです。結論、これ一台あれば曲作り・マシンができるくらいですね。
本記事では、最新のSyntaktの魅力を徹底的に掘り下げます。

Syntakt – 概要と特徴

Syntaktは、スウェーデンのシンセメーカーのElektron社が開発したドラムマシン/シンセサイザーです。
アナログとデジタルを組み合わせたハイブリッドな構成で、8つのデジタル・トラック 、4つのアナログ・ドラム・トラックの合計12トラックを搭載しています。また、後述の強力なシーケンサー機能により、多彩なメロディ/リズムパターンの作成・リアルタイムパフォーマンスができます。

音質について

一言で表現すると、コシのあるアナログサウンドをベースに多彩なメロディ、ノイズなどの上モノが組み合わさった感じです。

Syntaktにはアナログとデジタルの2種類のトラックがありますが、アナログはドラム特化で、デジタルはメロディ、コード、ノイズ、その他パーカッション用を想定している旨がマニュアルに書かれていますが、その守備範囲はもっと広いです。
各トラックには、合計35種類以上にも及ぶサウンドエンジンが搭載されており、例えばアナログドラムのトラックには2VCOのアナログシンセエンジンが入っていています。
この2VCOのシンセが超優秀で極太のベースラインに使えたりもするので、必ずしもアナログトラックをドラムに使わなければいけないということでもありません。(その逆も然りで、デジタル側にもにドラム用のサウンドエンジンが入っています)

各トラックの割り振りは以下の通りで、各サウンドエンジンの頭についているアルファベットでどの用途の音源なのか判断できます。

BD→キック
SD→スネア
RS→リムショット
CP→クラップ
CY→シンバル
CB→カウベル
SY→シンセ
PC→パーカッション

・1~8:デジタルシンセ
BD MODERN
SD BASIC
SD VINTAGE
PC CARBON
CP VINTAGE
CY ALLOY
SY BITS
SY TONE
SY CHORD
SY TOY
SY SWARM

・9~11:アナログドラム
BD CLASSIC
BD FM
BD PLASTIC
BD SILKY
BD SHARP
BD HARD
SD FM
SD NATURAL
RS HARD
RS CLASSIC
UT (UTILITY) NOISE GEN (WHITE NOISE GENERATOR)
UT (UTILITY) IMPULSE (POSITIVE/NEGATIVE POLARITY IMPULSE)
SY DUAL VCO
SY RAW

・12: アナログシンバル
CH CLASSIC
CH METALLIC
OH METALLIC
HH BASIC
CY CLASSIC
CY METALLIC
CY RIDE
CB CLASSIC
CB METALLIC
UT (UTILITY) NOISE GEN (WHITE NOISE GENERATOR)
UT (UTILITY) IMPULSE (POSITIVE/NEGATIVE POLARITY IMPULSE)

シーケンサー機能

Syntaktのシーケンサーは、最大64ステップのパターンを最大128パターンまで保存することができます。特筆する点としては、やはりElektronのアイデンティティである「パラメータロック」でしょう。
「パラメーターロック(Parameter Lock)」とは、Analog Rytm MKII、Syntakt、Digitaktなど、多くのElektron製品に搭載されている機能で、シーケンスの各ステップに、特定のサウンド、エフェクト、あるいはパラメータ設定などを個別に割り当てることができます。 例えば、パラメーターロックを使って、特定のステップにフィルターカットオフやエフェクトのセンド量などのパラメータ設定を変更することができ、独自でダイナミックなサウンドを作り出すことができます。
またSyntatkの場合、コードやメロディのピッチをこのパラメータロックを使ってステップ毎にコントロールすることになります。
※百聞は一見にしかず 参考動画はこちら↓(20:22~)

全てのトラックの全ての値を、ステップ毎に変えられるので、メロディやコードだけではなく、リズムパターンの展開にも全く困ることはありません。
パラメータロック以外にも、三連符、マイクロタイミング、スウィング、リトリガー(1ステップで32分や64分などで音をトリガーできる連打機能)など、高性能なシーケンサーにあるものは全て揃っています。

新機能「Modifiers」とは?

SyntaktはElektron製品で初めて、「Modifiers」という新機能が搭載されたモデルです。
Modifiersとは、リトリガー(32分や64分音符などでの打ち込み)やベロシティー、任意のパラメータ2つを、それぞれ4つまでプリセット登録しておき、瞬時に呼び出す機能のことです。
リアルタイムパフォーマンスに使っても良いですし、ハイハットの打ち込みやフィルターの変化の打ち込みを楽に行う、等の活用方法があり、超絶便利ですね。
個人的にもかなり気に入っている機能の一つです。
※以下動画ではModifiersを使って、サウンドを32分や64分でリアルタイムに打ち込んでいます。(00:28〜)

エフェクト

Syntaktにはセンドエフェクトとして、ディレイ、リバーブ、ディストーション、各トラック用のインサートエフェクトとしてエンベロープフィルターやオーバードライブが搭載されています。ちなみにこれらのエフェクトに対して、前述のパラメータロックやLFOをかけることもできます。

接続端子・拡張性

Syntaktは、オーディオアウトだけでなく、Overbridgeという専用のソフトウェアを使ってUSB接続によるパラアウトが可能です。このOverbridgeは非常に優秀で、プリセット管理や大きなメニューでパラメーターの編集ができ、DAW上でプラグイン感覚で使えるんですよね。

またMIDI端子&MIDI用のトラックが用意されており、MIDIケーブルを繋いで外部音源をコントロールすることが可能です。ステレオインプットも用意されているため、外部音源をMIDIで演奏&オーディオをSyntaktに取り込んで内部エフェクトをかけて一緒にマスターアウトに出力といった、簡易的なミキサーとして使用できます。
外部MIDIキーボードを繋いで、Syntaktの内蔵シンセを弾く・打ち込むことも可能です。(これシーケンサー打ち込みの作業効率がめっちゃ上がるのでおすすめです)

Syntaktと他のドラムマシン/シンセサイザーとの違いを比較

Syntaktと競合のドラムマシン/シンセサイザーを比較するとしたら、同じElektronのDigitaktやRoland/SH-4dが候補になるでしょうか。
それぞれをSyntaktと比較してみました。

【Elektron/Digitakt】
Digitaktはサンプラーなので、理論上出せない音はほぼ無いはずです。ただ、例えば303風のアシッドベースのフレーズをDigitaktで作る場合だと、サンプルなのでステップノート同士のグライド(Portamento)が作れない、元のオーディオサンプルのピッチが変化すると音質も大幅に変わるので、皆がイメージするあのサウンドにはなりません。

一方Syntaktの場合は、オリジナルの303と同じようにアナログシンセのオシレーターによってピッチを変化、グライドさせているので、(熱狂的な303マニアが納得するかはさておき)303風のアシッドベースの再現は比較的容易です。
Digitaktはあくまでもサンプルを再生するだけなので、シンセっぽいフレーズの打ち込みはSytaktよりも制約があることは認識しておきましょう。

一方でマシンライブ用としては、どちらもMIDIで外部音源をコントロールできますが、Syntaktにはサンプラーが搭載されていません。
声ネタ、ドラムループをサンプリングする場合や、既に他のシンセを持っている&それをサンプリングして使いたい場合は、Digitaktの方が良いと思います。

【Roland/SH-4d】
SH-4dはアナログを再現したデジタルシンセサイザーなので、音の太さでいえばSyntaktの圧勝だと思います。(細かい話をすると、SH-4dにはACB音源ではなく、ZEN Technologyをベースにした専用音源が搭載されています。ACBの方はアナログと遜色ないくらい太い音がでますが、ZENの方はすこーしペラい感じが出てしまうんですよね、、、その分消費電力や同時発音数ではZENの方が優れていますが)

じゃあSH-4dがダメという訳ではなく、あっちには2オクターブ分の鍵盤がついているので、シンセのメロディ・コードの打ち込みが楽です。またデジタルの利点を生かして、豊富なシンセエンジン、エフェクトが使えるので、かなりシンセサイザー寄りの製品であることは押さえておきましょう。


※Analog Rytm、Roland TR-8s、Korg/Drumlogueなどは完全にドラムマシン特化なので、比較対象としては少しずれる気がします。ドラム以外のサウンドも必要であればSyntakt一択です。

Syntaktの購入前に知っておきたいポイント

注意点というほどではありませんが、Syntaktを購入する前に以下のポイントを把握しておきましょう。

価格

Syntaktの値段ですが、昨今の世界情勢の影響もあり、発売後に価格改定で値段が少しだけ上がりました。外的環境的に今後も値下げする要素は無いので、欲しい場合はさっさと購入しちゃうのが吉です。

使い方や操作方法について

Syntaktは機能が豊富なので、操作方法について覚えることが少しばかり多いです。
ただ、Elektronのシンセ全体に共通することとして、直感的かつ合理的なユーザーインターフェースということもあり、慣れたらこれ以外のシーケンサーを使えなくなるほどです。
本体付属の説明書で覚えても良いのですが、以下のソースを活用するとより効果的ですね。

・ユーザーコミュニティ(英語)https://www.elektronauts.com/news
・2ch Elektron 総合スレ(日本語)
・Youtube※以下は英語のチャンネルですが、日本語字幕が付けられます

Syntaktのまとめと評価

Syntaktはドラムもコードもメロディもノイズもカバーできるので、これ一台で曲を作りたい人におすすめです。ジャンルとしてはテクノ、ハウス、アンビエントなどエレクトロミュージック全般に使えると思います。

Syntaktの長所と短所、おすすめする人

長所:アナログ/デジタルのサウンドエンジンで幅広い音作りができる、最高峰のシーケンサー機能、USBでパラアウトができる、MIDIで外部機器をコントロールできる
短所:サンプラーが非搭載、初心者にとっては操作方法を覚える期間が必要

Elektron製品、特にAnalog RytmやAnalog Fourに顕著ですが、特定の役割に特化したシンセが多く、単体で曲を作るのは難しい印象でした。
特にAnalog Fourのアナログシンセはクオリティの高いアナログシンセ&エフェクターで、1オクターブの鍵盤のおかげでフレーズ入力も簡単ですが、同時発音数が4なのでこれ一台で曲が作れるかというと、少し制約がある気がします。(ちなみにOctatrackは操作が難しすぎるので、初めてElektronを買う人にはおすすめしません。)
Syntaktはこれ一台で色々できるので、初めてシーケンサー付きのドラムマシン/シンセサイザーが欲しい人や、Elektron製品に憧れがある人にとっておすすめです。

また、Syntaktはシンセマシンとしては完璧なのですが、サンプラーが入っていません。そのためサンプリングや声ネタなどを使いたい場合は、同じElektronのDigitaktやOctatrack、AKAIのMPCシリーズを選ぶと良いでしょう。

総合評価

個人的にSyntaktはここ数年のドラムマシン/シンセサイザーの中で、特に素晴らしい製品だと思います。機能的にも一台で曲・パフォーマンスが完結しやすいこともあり、YouTubeやSNSの動画投稿が盛り上がっていますね。
Twitterなどでもマシンライブ好きな人たちの中で、かなり評判が良いので、ぜひ一度楽器屋で試してみてください。

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